2020年10月11日付日経新聞によれば、2020年7~9月の3ヵ月で新規公開企業が米国市場から調達したのは、630億ドル(約6兆6千億円)です。そのうち半分が、なんとSPAC(特別買収目的会社)だったといいますから驚きです。SPACとは、Special Purpose Acquisition Companiesの頭文字をとったものです。未上場企業を買収するのを目的として、上場するシェルカンパニー(ペーパーカンパニー)と言えます。
SPACは買収企業が決まらないうちに上場することによって株式市場から資金調達するため、ブランク・チェック(金額欄が空白の小切手)カンパニーとも呼ばれます。通常2年で買収企業が見つからなかった場合は一定の金利をつけて投資家に返金する仕組みとなっています。
SPACが脚光を浴びている背景には、金融緩和によるカネ余りはもちろんのこと、SPAC設立者に著名な経営者や大手投資銀行が名乗りをあげ、SPACに対する信用度が高まっていることがあげられます。また、投資家に人気なのは、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)に投資するよりも、SPACに投資をした方が、短期間に投資回収することができることがあげられます。PEファンドに投資した場合は、最終的な投資回収までに5年から10年かかりますが、SPACの場合は株式市場での売却によって迅速にエクジットが可能だからです。
さらに、新規株式公開(IPO)手段の多様化という側面があります。一般的なIPOの場合は、まず企業が株式引受先の投資銀行を選択。投資銀行は投資家の需給を勘案し公開価格を決定します。問題なのは、投資銀行は引き受けた株式が売れ残らないように公開価格を低めに設定する傾向があることです。従来から、公開企業や既存株主には、公開価格が意図的に低く抑えられているのではという不満があったわけです。さらに時間とコストがかかります。
そんな中、2020年9月30日、ニューヨーク証券取引所に上場したパランティア・テクノロジーズとアサナは、投資銀行を使わず、新株を発行しないで既存株主が保有株を市場で売却するだけの「ダイレクトリスティング(直接上場)」を行いました。
SPACもダイレクトリスティング(直接上場)と同様に、従来のIPOとは異なる方法といえます。上場予備軍の中には、多くの時間やコストがかかる従来のIPOを避けて、SPACに買収されることでスピーディーに上場することを望む企業が増えてきていることもSPAC上場増加の原因の一つでしょう。
ただ、投資家として留意すべきは、上場時には事業もなく、買収先を決まっていないSPACです。投資判断はSPAC設立者の評判に賭けるしかないということです。また、PEファンドに投資する場合、PEファンドは複数の企業に投資を行うことでリスク分散を図るのに対して、SPACが買収するのは通常1社ですから、リスク分散が図れないという点も留意する点でしょう。
ご参考:ブログ「貝殻(シェル)に4,200億円の値段」