2016年2月2日付の日経新聞によれば、2015年年間の自社株買い実施額は4兆8千億円と9年ぶりに過去最高を更新したといいます。資本効率の向上を迫られている日本企業が株主配分の手段として自社株買いを拡大しているようです。私たちにとっても、自社株買いという言葉が目新しいものではなくなってきました。
ただ、ここで私たちが押さえておかなくてはいけないのは、自社株買いで企業価値は創造されないということです。ROEが高くなっても、EPS(一株当たり利益)が増えても、企業価値が創造されたとは限りません。企業のキャッシュフローが増加して初めて価値が創造されるということを忘れてはいけないでしょう。
自社株買いに関していえば、手元現金をリターンの低い投資(いかがなものかと思う大型M&Aもしかり)に使われるくらいならば、むしろ自社株買いに使ってくれた方が株主にとっては、望ましいのは確かです。ただ、自社株買いそれ自体は価値を創造しません。
たとえば、自社の株価が割安に放置されていると考えている場合、自社株買いをすれば、理論的に株主価値は上がります。ただ、その場合でも、自社株買いそれ自体が価値創造したわけではありません。
単に企業価値が自社株買いに応じた株主から残りの株主に移ったにすぎません。自社株買いに応じないで残った株主の価値は増えたかも知れませんが、株主全体(=自社株買いに応じた株主+残った株主)としては何も変わっていないのです。つまり、100だった企業価値が120になったわけではなく、残った株主の持ち分が増えただけなのです。
企業価値創造は、常にキャッシュフローの増減に着目すればいいというシンプルなルールを忘れないようにしたいものです。
自社株買いが価値創造しないというなら、なぜ自社株買いを実施するのか、その理由については、本日アップしました「ファイナンス用語集:自社株買い」をご覧ください。