2019年10月21日付日経新聞に「迅速な経営判断の難しさ」というフィナンシャルタイムズの記事が掲載されました。そこでは、掃除機で有名なダイソンの電気自動車(EV)の開発中止が取り上げられていました。創業者ジェームズ・ダイソン氏は従業員宛てのメールに「惨めで恥ずかしいUターン」と書いたとあります。
確かに、どんな企業でも新しいことをやる時には難しい決断が必要でしょう。ただ、より難しい決断はジェームズ・ダイソン氏が行ったような撤退するという決断でしょう。経営者の仕事は決断することだとよく言われます。また、トヨタ自動車の豊田社長は「決断」とは「断つことを決することだ」とも言っています。
ところが、多くの経営者はやめるという決断をするのを嫌がります。見栄やメンツもあるでしょう。あるいはこれまで投入してきたカネやヒトなどの経営資源をもったいないと思うこと(これをサンクコストバイアスいいます)もあるでしょう。ジェームズ・ダイソン氏のように「惨めで恥ずかしいUターン」と自らの意思決定を冷静に受け止めることができる経営者はそう多くはないでしょう。だからこそ、企業が投資の撤退基準を持つことが大切なのです。アマゾンの投資哲学にこんな一文があります。
We will continue to measure our programs and the effectiveness of our investments analytically, to jettison those that do not provide acceptable returns, and to step up our investment in those that work best. We will continue to learn from both our successes and our failures.(私たちはプログラムや投資対効果を分析的に評価していき、許容できるリターンをうまないものからは撤退し、うまくいっている投資についてはさらに力を入れていきます。私たちは成功と失敗から学び続けます)
出典:1997年アニュアルレポート 株主への手紙
ここからアマゾンには撤退基準があることが分かります。現在のアマゾンを見ると何をやっても成功しているように見えます。実はアマゾン成功の秘密は、うまくいかない事業の「見切りの速さ」にあるのかも知れません。