2022年5月10日、日本経済新聞に以下のような記事が掲載されました。
財務省は、国債、借入金、政府短期証券の合計となる「国の借金」が3月末時点で1270兆4990億円になったと発表しました。前年同期比で29兆1916億円増加し、7年連続の新記録を更新しました。この増加は新型コロナウイルス対策と物価高対策による国債の増発が主な要因です。
一読すると、日本の財政状況が悪化しているという印象を受けます。しかし、考えてみると、これはバランスシートの右側(調達サイド)だけの話で、バランスシートの左側(運用サイド)の話は抜けています。つまり、日本にはどんな資産があるのかという視点が欠けているのです。それでは、実際のバランスシートを確認してみましょう。確かに、約1,300兆円の借金がありますが、約600兆円の金融資産も保有しています。財務省のしばしば指摘している通り、572兆円の債務超過の状況です。
出所:財務省、オントラック作成
ところがこれだけ見てても、日本の財政状況の全体像はつかめません。このバランスシートはあくまでも日本単体のもので、日本銀行(以下、日銀)との連結バランスシートではないからです。財務省は、日本と日銀の連結バランスシートを作成していません。そこで、私が連結バランスシートを作成しました。
まずは、日銀のバランスシートです(下図)。政府が発行した国債を引き受けることで、いまや532兆円の国債を保有しています。資金調達は、116兆円の発行銀行券を通じて行われています。これは事実上、日銀が印刷したお金ですから、利息はかかりません。また、当座預金とは、市中銀行が日本銀行に預けている資金であり、これにも利息は発生しません。
出所:日本銀行、オントラック作成
最後に、連結バランスシートです(下図)連結バランスシートの国債・政府短期証券等の723兆円は、日本のバランスシートに記載されている国債・政府短期証券等の1,255兆円から、日銀が保有している532兆円を差し引いたものです。
この連結バランスシートを見ると、有利子負債が765兆円(723兆円+42兆円)あります。一方で金融資産は約600兆円を保有しているのです。この事実から、現在の財政状況が過度に悪化しているとは言えないことが分かります。それでも、566兆円の債務超過ではないか、という人はいるかもしれません。ただ、発行銀行券と当座預金の合計665兆円は、利払いがあったり、返済期日がある借金ではないのです。
このように、日本の財政状況を評価する際には、日本銀行との連結でみる必要がある点と、単に負債の多さだけを見て判断するのではなく、負債の中身と保有する資産とのバランスを考慮することが重要であるという点を私たちは理解しておく必要があるでしょう。
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