最近、『略奪される企業価値』を読み、これまでの自分の考えが大きく揺さぶられました。私は長い間、日本企業だけが「株主至上主義」によって企業価値を略奪されていると思い込んでいましたが、それは大きな間違いでした。この書籍は、実際にはこの流れが米国の株式市場で始まり、日本はもちろんのこと、世界に広がっていることを示しています。特に「Maximizing Shareholder Value(MSV)」、つまり「株主価値の最大化」というイデオロギーが、どれだけ企業にとって有害であったかを痛感しました。
MSVは、一見すると合理的で、企業が株主の利益を最大化することは正しい戦略に見えます。しかし、このイデオロギーの結果、企業は本来の価値創造を犠牲にして、短期的な株主還元に偏るようになってしまったのです。私自身も、以前のブログで「企業が成長の見込みがない場合は、手元に現金を温存せずに株主に還元すべきだ」と主張してきました。ファイナンス理論上では、投資機会がないなら株主還元が正しいという論理は正当化されます。しかし、経営者は、売上高が横ばいの中、研究開発や設備投資、人材投資などの未来投資を削減し、一方で株主還元額だけが大幅に増加しています。これにより、企業は短期的な株主利益のために成長の基盤を犠牲にしているのです。
さらに、『略奪される企業価値』は、株式市場が単なる資金調達の場ではなく、投資家が資金を回収し、一般の株主が企業から資金を吸い上げる場になっているという事実を明かしています。日本企業もまた、外国人投資家が流通市場から株を購入し、企業から資金を吸い上げている状況にあります。
本書の最終章では、こうした略奪的価値抽出と戦い、持続的繁栄を取り戻すための基本的な指針を提示しています。価値創造型経済を構築するための基礎には、次の5つの大きな項目が挙げられます。
1. SEC規則10b-1の廃止:
公開市場での自社株買いを禁止することによって、略奪的な株主還元を抑制する。
2. 経営者報酬の再設計:
経営者が価値抽出ではなく、価値創造に動機と報酬を得られるようなシステムに変更する。
3. 取締役会の再構成:
労働者や納税者、貯蓄者としての家計の代表を取締役会に含め、略奪的価値抽出を行う者たちを排除する。
4. 法人税制の改革:
利益を納税者である家計に還元し、次世代の革新を支えるための政府支出を充実させる。
5. 企業利益と生産能力の再配置:
社会経済的な流動性を向上させ、集団的かつ累積的なキャリアを支える仕組みを広く導入する。
私たちは、このような改革を進めるために、企業のあり方や経済の仕組みを根本から見直す必要があります。『略奪される企業価値』は、その方向性を示す重要な一冊だと思います。
※参考ブログ
「過去最高の15兆円配当、日本企業の未来」
「日本企業の将来を決めるもの」
「骨の髄までしゃぶりつくされる日本企業」
「これが「新しい資本主義」の答えだ!」