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第一生命HDの同意なき買収

第一生命ホールディングス(HD)は2024年3月12日、福利厚生代行を手がけるベネフィット・ワン(ベネワン)に対するTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表しました。残った少数株主から強制的に株式を買い取るスクイーズアウトなどを経て、5月をメドに完全子会社化する予定です。

そもそも、このベネワンは、医師向けの医療品情報サイトを運営するエムスリーが2023年11月に1株1,600円で買収すると発表しました。エムスリーの提案は、全部買収ではなくて、部分買収でした。パソナGが保有する株を買い取るという形で買付予定数の上限は55%でした。エムスリーの子会社化後もベネワンは上場を維持する方針だったのです。


出所:オントラック作成

その後2023年12月に第一生命HDが対抗提案を公表し、最終的に1株2173円での買収でパソナGと合意しました。第一生命HDは、2023年12月7日「株式会社ベネフィット・ワン株式 (証券コード:2412) に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」において、エムスリー公開買付開始プレスリリースの公表を契機として、ベネワンの事業に極めて惹きつけられ、買収の検討を開始したと明言しています。つまり、完全な後だしジャンケンなのです。

今回のような「同意なき買収」と言えば、最近では、ニデック(旧日本電産)が工作機械メーカー、TAKISAWAに対して買収の提案を行ったことが記憶に新しいですが、なぜ、JTC(ジャパン・トラディショナル・カンパニー)の代表とも言える第一生命HDがこのような「同意なき買収」を行ったのでしょうか。

これは、2023年4月に第一生命保険会社の社長に就任した隅野氏の経歴によるところがあるかもしれません。就任当時53歳と金融機関のトップとして異例の若さであった隅野氏は、生保トップとしてはめずらしい運用畑の出身です。海外経験も豊富で海外M&Aを牽引してきた経験もあるといいます。

さらに、第一生命HDは、現在の時価総額3.5兆円から、2026年度末には6兆円、2030年度末には10兆円への成長を目指しています。この目標は、同社の野心的な成長戦略の一環として位置づけられています。一方、エムスリーがベネワンに対するTOBを発表する前、ベネワンの株価は1000円前後で推移していました。第一生命HDはこの株価に大幅なプレミアムを加えた価格で買収を決定しましたが、この高額な買収価格が本当に正当化できるのか、と考えてしまいます。


出所:オントラック作成

ベネワンは、特に20代から40代のビジネスパーソンの貴重なデータベースを有しており、ヘルスケア分野において強みを持っています。同社が保有する健康診断の広範なデータは、予防医療サービスの充実に寄与し、結果として保険契約者の健康リスクを低減させることが期待されているのです。そうであれば、最終的には第一生命保険会社の収益向上にも繋がる可能性があります。今後の第一生命HDの動向が楽しみです。

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